RSウイルス(RSV)は気道感染ウイルスであり、小児の気管支炎の原因としてのみでなく、中耳炎の原因としても知られている。そこで、RSV抗原由来HLA A0201拘束性ペプチド5種類を用いて上気道及び全身免疫系のペプチドに対する免疫反応の違いを知るべく、口蓋扁桃由来単核球と末梢血単核球(PBMC)のペプチドに対する反応性の違いについて検討した。 文書にて同意を得られたHLA A0201の両側口蓋扁桃摘出術を受けた患者より、扁桃組織及び末梢血を採取。Ficol1を用いた比重遠沈法にて単核球を分離。RSV抗原であるFタンパクおよびGタンパク由来のHLA A0201拘束性ペプチド5種類に対して反応しIFN-gを産生する細胞について、ELISPOT法を用いて測定した。扁桃由来単核球については、MACSを用いてCD4陽性細胞及びCD8陽性細胞をディプリーションし、反応する細胞のフェノタイプも検討した。 RSV抗原由来ペプチドに反応するT細胞は、PBMCにはほとんど存在せず、扁桃由来単核球に多く存在した。扁桃由来単核球を用いたディプリーションアッセイでは、CD8をディプリーションすると反応する細胞がなくなってしまうが、CD4をディプリーションしても反応する細胞が得られた。RSV抗原由来ペプチドはHLA class1拘束性であり、反応を示すのはCD8陽性T細胞であった。 末梢血は本当にRSV抗原由来ペプチドに反応しないのか?そこで、HLA A0201健常成人4例の自己血由来樹状細胞(DC)をin vitroで誘導し、RSV抗原由来ペプチドでパルス。同一健常人のPBMCをペプチドパルスDCで計4回刺激し、さらに高濃度のペプチド存在下で培養。得られた細胞のペプチドに対する反応について、ペプチド特異的IFN-g産生細胞をELISPOT法を用いて検出した。 健常人4例について検討を行い、ペプチドパルスDCで刺激する前のPBMCでは全例ペプチド特異的IFN-g産生細胞は見られなかったが、ペプチドパルスDC刺激後では、4例中3例でペプチド特異的IFN-g産生細胞がELISPOT法にて検出された。ペプチドパルスDCを用いることにより、末梢血においてもRSV抗原由来ペプチドに対する反応が見られた。 RSV抗原由来ペプチドに対する反応性は、末梢血と扁桃由来の単核球では違いを認めた。末梢血をはじめとする全身免疫系の他に、扁桃をはじめとする気道特有の免疫系が存在することが示唆された。通常、成人でRSV感染既往がないとは考えにくい。RSV感染の既往があれば、末梢血中にもウイルスに友応するメモリーT細胞が存在するはずである。今回の検討で末梢血もRSV抗原に反応することが明らかとなった。末梢血中に存在するべきRSV抗原特異的メモリーT細胞がなんらかの機序で取り除かれている可能性があると考えられ、RSVをはじめとする気道感染ウイルスに対して終生免疫が得られず反復感染を起こす原因の一つと考えられた。
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