研究概要 |
癌細胞におけるPGE2レセプターの発現は組織により様々な報告があり、頭頸部癌における詳細な検討は少ない。また、いずれのレセプターが癌の増殖に関与しているかも不明である。昨年の検討により生検材料ならびに培養細胞にてEP3, 4レセプターの発現が主に認められたため、EP3, 4レセプターの拮抗剤(antagonist)による細胞増殖の抑制効果を検討した。Cox-2ならびにPGE2産生能の異なる2種類の頭頸部癌培養細胞を用いてEP3 antagonist(ONO-AE3-240)とEP4 antagonist(ONO-AE3-208)の効果を検討したところ、EP3 antagonistによる細胞増殖抑制効果を認め、COX-2, PGE2産生能の高い細胞でより効果があった。EP4 antagonistはむしろ増殖を亢進する傾向を認めた。EP3 antagonistはPGE2の産生も抑制したが、PGE2の添加によって細胞の増殖抑制は部分的に阻害されたもののその効果は限定的であった。細胞増殖を抑制しないがPGE2を著明に抑制する濃度のNS398を投与し、その後にEP3 antagonistを添加すると、有意な細胞増殖抑制効果を認めた。すなわち、EP3 antagonistによる細胞増殖抑制効果はPGE2の抑制経路以外の系が関与していることが示唆された。EP3 antagonist投与による細胞周期の変化をフローサイトメトリーで検討したところ、EP3 antagonist投与によりG1期の細胞が増加し、G1 arrestを引き起こすことがわかった。さらに、細胞周期調整因子をrealtime PCRで検討したところ、CDK2, CDK4, cyclin D1の低下を認め、EP3 antagonistによる増殖抑制作用のひとつとして、細胞をG1 arrestに導く機序が関与しているものと考えられた。以上のことから、COX-2過剰発現を有する頭頸部癌に対して、COX-2阻害剤と同様にEP3阻害剤は癌細胞の増殖を抑制する可能性が示唆されたが、その機序はPGE2合成経路以外の関与が考えられ、今後のさらなる検討を要する。また、in vivoによる効果を検討し、臨床的に応用可能かどうか検討していく必要がある。
|