我々は非症候性遺伝性難聴DFNA9の病因であるCochlinについて先進的に研究を行ない、今までに、i)Cochlinが分子量の異なる3種類のアイソフォームを持つこと。ii)Cochlinが内耳特異的蛋白であること、iii)Cochlinの一部が切断されて作られたと考えられているCochlin-tomo-protein(CTP)が、今まで困難とされてきた外リンパ瘻の診断マーカーとして有用であること(現在特許出願中)などを報告してきた。 我々は内耳発生過程おけるCochlinとラセン靭帯の関係(特にイオンサイクル機構とCochlin)の関係を検討する目的で、ラットを用いた内耳発達過程におけるCochlinの発現パターンの解析(Spatiotemporalな検討)を行なっている。 平成18年度はまず第1段階として、内耳発達過程におけるcochlinの発現をspatialに検討する目的で、生後6日目から成獣までのウィスター系ラットの内耳切片を用いて免疫染色をおこなった。その結果、生後6日目のラットの蝸牛では、すべての領域においてcochlinの発現は認められなかったが、生後17日目になると、ラセン靭帯、ラセン板縁を中心に弱い染色性を認めるようになり、成獣では、ラセン靭帯、ラセン板縁だけでなく、蝸牛軸や骨ラセン板にも強い染色性を認めた。一方コルチや血管条、ラセン神経節、ライスネル膜といった構造物は経過を通じて染色性は認めなった。しかし、免疫染色における染色性の違いはある程度の傾向がつかめるだけであり、定量性に問題があった。そこで平成19年度は、第2段階として、ラット内耳組織を用いたウェスタンブロットを行なった。その結果生後13日目までは、明らかなシグナルは認められなかったが、その後徐々に発現量が24日目をピークとして増加することが明らかとなった。さらにアイソフォームごとに発現パターンを見ると、初期にはp63sが優位であったが、後にp40sが逆転して優位になる現象が観察された。平成20年度は、このウェスタンブロットの結果をイメージ解析することにより、より定量的に解析を行なう予定である。
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