研究概要 |
1)糖尿病網膜症患者における網膜循環動態 レーザードップラ眼底血流計(LDV)を用いて網膜血流量(RBF)を測定した。糖尿病があり、網膜症なし(NDR)群55名(59歳)、背景網膜症(BDR)群44名(58歳)、前増殖網膜症(PPDR)群25名(57歳)を対象とした。健常者50名50眼をコントロール群とした。RBFは、コントロール群(11.9μl/min)、に比べ、NDR群(10.0μl/min)、BDR群(9.6μl/min)で、有意に低下していたが(p<0.05)、PPDR群(11.8/min)は、コントロール群と比べ有意差はなかった。このことから、網膜症のない、あるいは単純網膜症を有する糖尿病患者では網膜動脈血流量が低下していることが明らかとなり、網膜症発症前の、形態変化が生じる前からすでに網膜血流量が減少していることが明らかとなった。 また、血管のコンプライアンス(硬化性)を反映するPulsatility ratio (PR)を収縮期血流速度と拡張期血流速度の比から求めた。PRは、コントロール群;3.1±0.9(平均値±標準偏差)、NDR群;4.1±1.7、BDR群;4.3±2.7、PPDR群;4.6±2.1と、網膜症の病期進行に伴い増大していた(Spearman's ρ=0.34,P≦0.0001)。これより、糖尿病網膜症の進行に伴い、網膜動脈の硬化性増大(血管コンプライアンスの低下)が生じていることが推測された。 2)糖尿病患者における動脈硬化の評価 Augmentation Index (AI)は動脈壁硬化の指標として、その有用性が知られている。非侵週襲的かつ簡便に橈骨動脈のAIを測定できる血圧脈波検査装置(HEM-9000AI、オムロンヘルスケア社製)を用いて、糖尿病患者の動脈硬化を評価した。糖尿病があり、網膜症なし(NDR)群15名(55歳)、網膜症あり(DR)群15名(55歳)を対象とした。AI値は、NDR群;86.1.±10.0、BPR群;83.3±19.7で、両群間に有意差はなかった(unpaired t-test, p=0.6244)。網膜症の発症・進展と全身の動脈硬化は関連しない可能性が示唆された。 以上より、糖尿病網膜症の発症、進行には網膜動脈の血管硬化との関連の可能性が示唆されたが、全身性の動脈硬化との関連は認められなかった。
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