研究概要 |
我々の研究室では、悪性メラノーマに罹患し、幹部切除のため摘出された65歳女性の眼球より強膜組織を単離・培養し、ヒトパピローマウイルス16・E6E7不死化遺伝子をレトロウイルス方によって遺伝子導入した、ヒト強膜由来細胞株を作成した。不死化遺伝子を導入後、一部、伸張した細胞が見られたが、大半の細胞の形態に大きな変化は見られなかった。また、不死化遺伝子の導入により、長期培養が可能になったため、強膜の生理学的・生化学的研究、網膜硝子体疾患の病因解明および予防・治療薬の開発等のための有用なモデル細胞となると考えられる。 この樹立された強膜由来細胞株における、サイトカインPDGF-BBを投与し、その影響を調べた。結果、PDGF-BBによって、細胞外マトリックスの一つであるヒアルロナンを合成するヒアルロナン合成酵素(HAS)3種類のうち、HAS2についてmRNA発現が上昇した。また、細胞外マトリックスを分解するマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)のうち、強膜で遺伝子が発現されていると報告があったMMP1,2,3のうち、MMP1とMMP3についてのmRNAの発現が上昇した。一方で、MMPの働きを阻害する、メタロプロテアーゼインヒビター(TIMP)の発現に変化は見られなかった。一方で、ステロイドのひとつであるハイドロコルチゾンによっては、上記遺伝子の変化は見られなかった。 ヒアルロナンは、細胞のmigrationやproliferation、血管新生に関連していることが知られている。今後は、ヒアルロナン産生調節の解析を行う。また、PDGF-BB投与による他の細胞外マトリックスの変化をさらに探求し、強膜リモデリングについて検討したいと考えている。
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