鶏胚網膜を用いたプロテオミクスの結果より、Wntファミリーの中のWnt-9が網膜の分化タンパク発現が上昇することが判明していた。そのため、まずはWnt-9の網膜内での発現部位を同定するために、Wnt-9との相同的配列を有するWnt-14に対する抗Wnt-14抗体を用いて、鶏胚網膜において組織免疫染色を行ったところ、網膜神経節細胞に強く発現していることが判明した。 さらに、未分化網膜の継代細胞(R28細胞)の培養系を構築し、血清除去およびグルタミン酸神経毒性によって細胞死を誘導する系を構築した。一方で、Wnt-9をHAタグつきの発現ベクターpCMV-HAに導入し、その発現について調べたところ、Neurofectamineを用いた遺伝子導入法では30%程度の遺伝子導入率などをR28において得られることを、抗HA抗体を用いたウェスタンブロット法および免疫染色法の両方において確認した。そのWnt-9をR28細胞に過剰発現させた後、血清除去およびグルタミン酸神経毒性による細胞死を誘導すると、過剰発現したWnt-9によって、それぞれの刺激に対して抑制されることが分かった。さらに、Wnt-9とアポトーシスの相互応答について検討するために、アポトーシスの重要なシグナル因子であるCaspase-3とWnt-9の関連性について検討した。すなわち、血清除去およびグルタミン酸神経毒性による細胞死を誘導した場合は、活性型Caspase-3の発現が認めらるが、Wnt-9過剰発現下において同様の実験を行ったところ、Wnt-9が過剰発現している細胞においては、Caspase-3の活性化が抑制されていることが、免疫染色によって判明した。 以上より、現時点では、Wnt-9は、グルタミン酸神経毒性などによる神経細胞死に対して、神経保護の作用を有し、それはcaspase-3の活性化の抑制を介していることが分かった。
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