本年度(〜平成19年3月31日)の研究実績概要 1)初代網膜色素上皮細胞の単離および培養技術の確立 生後1-2週間のラット眼を速やかに摘出して、角膜、虹彩、水晶体を除去し、後部眼のみをコラゲナーゼおよびヒアルロニダーゼに約60分、さらにトリプシンによる酵素処理を約60分行う。適宜、使用培地内でさらに約1〜2時間培養し、網膜色素上皮細胞をシート状に単離し、数分トリプシン処理を行った後に、プラスチックの培養プレート上で培養していった。コンフルエントなシート培養条件において、網膜色素上皮細胞が生理的な状態にどれだけ近づいているかは以下の方法で検討した。免疫組織染色実験において、細胞間結合装置であるZO-1や特異的細胞タイプマーカーとみなされるサイトケラチンの発現を確認した。また、RT-PCRにより、RPE-65(網膜色素上皮細胞に特異的なmRNA)の発現を確認した。以上の確認と共に、形態上の違いをセルラインと比較すると、ARPE-19などのセルラインでは、6角形の形態を持つ網膜色素上皮像はまず得られず、繊維芽細胞様の形態を示し、色素沈着も認められない。一方、今回の検討では、生理的な網膜色素上皮の形態である6角形を示すとともに、数週間培養していくうちに、色素沈着も認め、極めて生理的な条件に近い初代網膜色素上皮細胞の単離技術を得ることが出来た。 2)初代網膜色素上皮細胞への酸化ストレス負可と形質転換の検討 1)で得られた初代網膜色素上皮細胞に対して、酸化ストレスとしてH_2O_2やmenadioneを培養系に負荷し、細胞死を誘導しない程度の濃度を検討したところ、100-200μMのH_2O_2による負荷が適していた。現在、上皮・間葉系形質転換(EMT)において重要な役割を担っているカドヘリンの変化などを検討中である。 3)周辺部網膜色素上皮採取技術の確立 眼底周辺部の比較的視機能に問題のない領域より網膜色素上皮を採取し、黄斑部へ移植するための技術を確立するため、、有色ウサギ眼を用いて、ブルッフ膜と脈絡膜まで含めた網膜色素上皮のブロック切除と、網膜色素上皮のみを擦過して採取する方法を試みているが、両者とも技術的に困難な点が多く、現在より安全で効果的な方法を検討中である。
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