輪部機能不全に対する治療法として、生体外で上皮幹細胞を増殖させて作成した上皮シートを眼表面に移植する培養上皮移植術が開発され、良好な治療成績を収めている。しかし、培養に必須のフィーダー細胞には異種であるマウス繊維芽細胞株3T3が用いられており、潜在的な異種由来感染の危険性は否定できない。そこで本研究では3T3に代えてヒト繊維芽細胞をフィーダー細胞に用いて培養上皮を作成し、この培養上皮シートが臨床応用できるだけの質を持つか否かを検討している。 ヒト輪部から分散した繊維芽細胞に対して薬剤処理を行い、フィーダー細胞を作成した(以下ヒトフィーダー)。ヒトフィーダーがヒト角膜輪部上皮細胞(以下HLEC)の増殖を支持できるか確認するため、ヒトフィーダー上にHLECをごく低密度(17 cells/cm^2)で播種し、HLECのコロニー形成率(CFE)を求めた。また、ポジティブコントロールとして3T3フィーダー上のCFEを、ネガティブコントロールとしてフィーダーが無い場合のCFEを用いた。その結果、ヒトフィーダー上のCFEは4.5%±0.9%(n=3)で3T3上(9.5%±4.4%)よりは有意に低いものの、フィーダーを用いない場合(0%±0%)よりは有意に高かった。 次に、ヒトフィーダーを用いて培養上皮シートを作成し、その状態を組織学的および免疫組織学的に検討した。ヒトフィーダーと培養した上皮シートは3T3と培養した上皮シートと同様に重層し、角膜上皮分化マーカーCytokeratin 3、Connexin 43および角膜上皮未分化マーカーであるP63を発現していた。 これらの結果により、ヒト輪部繊維芽細胞のフィーダーは3T3と同様、ごく低密度で播種したヒト培養上皮細胞の増殖を支持でき、また培養上皮シートの重層、分化を支持できることが示唆された。次年度は培養上皮シート内に幹細胞が保持されているかについて検討を加えるとともに、角膜輪部以外の細胞源についてもフィーダー細胞として利用可能か検討する予定である。
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