研究概要 |
正常者の涙液、マイボーム腺分泌物のメタボローム解析,プロテオーム分析を行い、各々の成分を網羅的に解析する手法を確立した。シルマー試験紙で採取した涙液やマイボーム腺分泌物から蛋白と脂質を抽出し、脂質に関してはミクロ高速液体クロマトグラフィ(HPLC)とエレクトロンスプレー・質量分析計(ESI-MS)を連結したシステムで分析を行った。蛋白の分析は,涙液試料から抽出した蛋白をトリプシン消化し、得られたペプチドをHPLCとESI-MSを連結したシステムを用いて分析を行った。質量分析のデータからペプチドのアミノ酸配列を求め,そのアミノ酸配列を含む蛋白をMascotソフトウエアを用いてデータベース検索を行い,蛋白質の同定に用いた。 この方法で採取した5マイクロリットル程度の涙液やマイボーム腺分泌物から100種類以上の脂質分子と数百種類以上の蛋白分子を同定できる手法を確立することができた。正常者でも涙液とマイボーム腺分泌物では脂質組成にかなりの差異がみられ、涙液中ではリゾリン脂質や遊離脂肪酸の増加がみられた。これらは涙液中の脂質の由来がマイボーム腺からだけでなく、涙腺なども関与している可能性や、涙液中で脂質が代謝を受けている可能性を示すものである。今後、マイボーム腺機能不全患者の涙液、マイボーム腺分泌物で同様の解析を行い、マイボーム腺機能不全の診断や病勢のマーカーになる脂質や蛋白分子を同定し、病態への関与を詳細に検討することで、新しい治療法の開発につながる可能性があると考えられた。
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