新たなドナー細胞供給源として脂肪組織に焦点をあて、中枢神経再生療法に対する脂肪組織の有用性をin vitroおよびin vivoの両面からアプローチした。 ラット脂肪組織より単離した成熟脂肪細胞を天井培養すると、脂肪滴をもたない線維芽細胞様の形態をした細胞(mature adipocyte-derived cells : MADCs)が得られた。MADCsは通常培養条件下において活発に増殖し、脂肪細胞への再分化能を有することを確認した。興味深いことに、MADCsはすでにいくつかの神経系のマーカーを発現していることが明らかとなった。この細胞を神経細胞へと分化誘導すると、線維芽細胞様の形態からいくつかの分枝を有する形態への変化が観察され、神経細胞特異的な遺伝子発現パターンが認められた。免疫染色を行ったところ、nestin、βIII tubulin、GAP-43およびtrkB陽性、GFAP陰性であった。これらのことから、MADCsは神経細胞への分化能を有する可能性が示唆された。 次いで、ラットMADCsを重錘落下法により作製した外傷性脊髄損傷モデルラットに同種移植し、ドナー細胞としての有用性を検討した。Basso-Beattie-Bresnahanスコアを用いて後肢運動機能を評価したところ、細胞移植なしのコントロール群に比較して、MADCs移植群では障害を受けた後肢運動機能の改善の促進が有意に認められた。さらに、性差を利用したSry遺伝子の検出あるいはGFP発現トランスジェニックラットのMADCsを用いることにより、移植細胞が生着していることを確認した。 従って、本研究からラットMADCsは神経細胞への分化能を有する可能性が示唆され、移植ドナー細胞として用いると損傷後の機能回復に寄与することが明らかとなった。
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