ラットおよびヒト脂肪組織より得られる線維芽細胞様の形態をした成熟脂肪細胞由来細胞mature adipocyte-derived cells(MADCs)/de-differentiated fat cells(DFAT)の細胞特性ならびに外傷性脊髄損傷モデルラットへの細胞移植後の後肢運動機能改善への寄与について検討した。 Flow cytometry、real-time RT-PCR法およびWestern Blot法を用いた解析により、ラットおよびヒトDFATはnestin、βIII tubulin、GFAPなどの神経系マーカーに加え、神経栄養因子であるBDNFならびにGDNFを発現している細胞であることが明らかとなった。また、脊髄損傷モデルラットに同種移植し損傷部位で生着がみられたラットDFATにおいても、BDNFならびにGDNFの発現を確認した。これらのことから、DFAT移植後の運動機能回復の促進には、損傷部位でのDFATからの神経栄養因子の産生が寄与していることが示唆された。次いで、ヒトDFATを脊髄損傷モデルラットに異種移植し、Basso-Beattie-Bresnahanスコアを用いて後肢運動機能を評価した。細胞移植なしのコントロール群に比較して、ヒトDFAT移植群では障害を受けた後肢運動機能の回復の促進が有意に認められた。さらに、ヒトDFATを移植したラット脊髄切片をヒト核タンパク質およびヒトnestinに特異的な抗体を用いて染色したところ、損傷部位で陽性細胞が検出され、移植したヒトDFATの生着が認められた。 本研究において、外傷性脊髄損傷に対するDFATの移植は、損傷後の運動機能回復を促進することが認められ、その作用機序の一つとしてDFATからの神経栄養因子産生が示唆された。従って、中枢神経再生のドナー細胞供給源として脂肪組織は有用であることが明らかとなった。
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