本研究の目的は、死のメディエーターHMGB1の作用メカニズムを解明することであり、特に、HMGB1が血液凝固系に及ぼす影響を中心に検討することである。当初計画していた通り、動物実験ならびに試験管内の実験を行い、HMGB1は単独では血液凝固活性も致死活性も示さないが、トロンビン・トロンボモジュリン複合体によるプロテインCの活性化を抑制することによって凝固反応を加速させ、致死的に働いていることを明らかにした。我々は、当該研究成果をJournal of Thrombosis and Haemostasis誌に報告し、国際血栓止血学会(2007年)で発表した。 敗血症は今なお致死率の高い疾患群であり、特に血液凝固異常(DIC)を合併すると、予後は非常に悪くなる。敗血症の際に、血中HMGB1濃度が高くなると、なぜヒトは死んでしまうのか、その作用メカニズムは長らくよくわかっていなかったが、今回の研究により、HMGB1はDICを引き起こすことによって致死的に働いていることが明らかとなった。敗血症ならびにDICのメカニズムを解明することは、致死率の高いこれらの疾患に対する理解を深め、効果的な治療法の開発につながるものと考えられる。実際、HMGB1を中和する治療法は、動物実験レベルではその効用が確立されつつあり、今後の臨床応用が期待されている。 また、前述の研究から派生し、平成19年度に新たに行った研究により、HMGB1は体液調節因子バランスを乱し、敗血症性ショックを引き起こしていること、虚血再還流傷害の引き金をひいていることが明らかとなり、現在、これらの研究成果をまとめ、論文投稿の準備を進めているところである。
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