これまでの研究でセリンプロテアーゼであるニューロプシンが中枢神経系の損傷後にミエリン産生細胞であるオリゴデンドロサイトで発現が増加することが明らかにされている。脊髄損傷の病態には受傷直後に生じる一次的機構とそれに引き続いて起こる二次的機構が関与し、そのうち二次的機構では虚血、炎症、ニューロンやグリア細胞の細胞死などが起こり、その結果四肢麻痺などの永続的な身体機能の損失を引き起こすと考えられている。本研究では脊髄損傷後の病態にニューロプシンがどのように関与しているかを明らかにするために、野生型および遺伝子欠損マウスを用いて脊髄損傷後に組織学的、行動学的な検討を行った。その結果、脊髄損傷後の損傷範囲については野生型および遺伝子欠損マウスで違いは認められなかったが、ニューロプシン遺伝子欠損マウスでは、脊髄損傷によって起こる脱髄、オリゴデンドロサイトの細胞死、さらには軸索変性が有意に抑制されることが、MBPの免疫組織化学的染色、TUNEL法と細胞マーカーの免疫組織化学との2重染色、神経トレーサーを用いた実験、および電子顕微鏡による観察によって明らかとなった。行動学的評価において、ニューロプシン遺伝子欠損マウスでは脊髄損傷後10〜42日において、歩行能力とバランス維持能力の障害の程度が野生型マウスと比較して有意に抑制されることが明らかとなった。これらの結果からニューロプシンは、脱髄、オリゴデンドロサイトの細胞死、軸索変性など脊髄損傷の病態における二次的機構に関与していることが示唆された。なお、これらの研究成果は神経科学の国際雑誌であるNeuroscienceに掲載された。
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