本年度は平成18年度に同定したセメント芽細胞に特異的に発現する遺伝子F-spondinの歯周靭帯細胞の分化および接着能に対する影響を明らかにし、セメント芽細胞での機能や歯周組織再生への応用の可能性を検討する事を目的に以下の通り実施した。 (1)平成18年度にF-spondinを歯周靭帯細胞に遺伝子導入すると、石灰化関連蛋白の遺伝子発現を増強させた結果より、平成19年度ではF-spndi1ペプチドを用いて、歯周靭帯細胞の分化に対る影響を検討したところ、細胞のアルカリフォスファターゼ活性を上昇させる傾向が認められた。しかしながら、石灰化関連蛋白の分化後期のマーカーとされるオステオカルシンやボーンシアロプロテインについては変化がみられなかった。また、細胞接着能について検討するためにcell adhesion assayを行ったところ、接着能に明らかな有意差は認められなかった。よって、F-spondinペプチドはセメント芽胞の初期の分化を促進するものの細胞の硬組織形成能および接着能に影響を及ぼさない事が示された。 (2)In vivo での硬組織形成能に与える影響を検討するために、F-spondin遺伝子導入した歯周靭帯細胞をヌードマウスの皮下にハイドロキシアパタイトとともに移植したところ、少量の硬組織形成は認められるもの、明らかな有意差は認められなかった。よって、in vivoでの硬組織形成において、F-spndin単独では硬組織形成促進は難しいことが示された。 以上の結果から、F-spondinは歯周組織においてセメント芽細胞に特異的に発現するセメント芽細胞のマーカーとしては注目すべき遺伝子であるが、F-psndin単独ではセメント芽細胞の初期の分化が促進されるのみで、セメント芽細胞の最終分化促進や歯周組織再生への応用のためには他の因子と組み合わせるなど更なる検討が必要と考える。
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