研究概要 |
本年度は,骨形成および歯の発生におけるWntおよび関連因子の局在を検索し,Wntシグナルが硬組織形成に与える作用を検討した.Wntシグナルの検索には下流にあるβ-カテニンの局在を指標とした.β-カテニンの局在は歯槽骨周囲の骨芽細胞や前骨芽細胞,エナメル器の上皮系細胞および歯小嚢の細胞に認められた.またWntシグナルに対して拮抗作用を持つとされているSclerostin/SOSTの局在は,歯槽骨の骨細胞および骨芽細胞に認められた.一方,歯におけるSOSTの発現は,切歯の象牙芽細胞とエナメル芽細胞に見られ,形成端から切歯尖端に向かうにしたがい免疫反応が強まる傾向を示した.臼歯においても同様に象牙芽細胞に発現が見られた.これらの知見は,口腔組織の硬組織形成において,WntシグナルやWnt antagonistが歯および歯槽骨などの硬組織形成を制御する因子として深く関与することを示唆している.さらに,このWntシグナルが硬組織形成にどのように関与しているかを検討した.未分化間葉系細胞にcanonical Wnt signalingを活性化するWnt3aを添加すると,実験開始4週目にてアルシアンブルー陽性となり,軟骨細胞様細胞に分化することが示された.また,骨欠損修復において関与する因子を検索するため,欠損部位の細胞を採取し,その細胞が発現するmRNAをRT-PCRにより解析した.その結果,修復を担う細胞は骨髄細胞や骨膜の細胞に比べて,GremlinやNogginなどのBMP antagonistが高い発現を示した.欠損修復過程では,修復初期に軟骨が介在することで修復が速やかに進行するとされている.これらの知見は,骨修復過程にWntシグナルが関与することを示唆している.
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