研究概要 |
増殖因子前駆体などを活性化するサチライシン様前駆体蛋白質変換酵素PACE4の活性を阻害剤Dec-RVKR-CMKにより阻害することで,培養顎下腺の分枝形成が抑制され,腺房細胞の増殖・分化が抑制された結果,唾液分泌に関わるAQP5発現が減少した.この抑制効果はPACE4の触媒領域に対する特異抗体でも認められた.これら蛋白質レベルでの阻害実験に加え,RNAレベルでの抑制実験(RNAi実験)においても,PACE4発現の抑制レベルに応じて顎下腺腺房細胞の分化の指標となるAQP5発現が抑制された.PACE4発現を90%程度抑制すると,AQP5発現はほぼ完全に抑制され,顎下腺の分子形成と腺房細胞の増殖・分化の抑制も顕著に認められた.本RNAi実験に用いたPACE4に対するsiRNA配列の有効性から,RNA創薬への応用も期待でき,現在特許申請中である.また,PACE4は生後の顎下腺発生過程では主として導管細胞では発現せず,腺房細胞で発現し,腺房細胞の成熟化に伴い発現しなくなる(Akamatsu et al.,2007).PACE4の発現制御にはbHLH型転写因子が関与し,特にMASHファミリーに抑制されることが知られている.顎下腺発生過程では現在2種類のbHLH型転写因子が同定され,腺房細胞にはMist1が,導管細胞にはMASHファミリーであるSgn1が発現することから,PACE4発現はこれらのbHLH型転写因子による異なる制御を受け,唾液腺の腺房細胞と導管細胞の成熟化と密接に関わると考えられる.HSG細胞はヒト唾液腺介在部導管細胞より樹立され,培養条件により腺房細胞に分化することが報告されている.分化前HSG細胞ではSgn1は発現し,PACE4とAQP5は発現しないことを確認したが,報告例の様な腺房細胞への分化が認められないことから,現在,詳細な培養条件等を検討中である.
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