レプチンが腎臓の近位尿細管に特異的に存在する1α-水酸化酵素の遺伝子発現を抑制する詳細なメカニズムの解明を試みた。活性型レプチン受容体(Ob-Rb)に異常があり主要なレプチンシグナルが欠損しているdb/dbマウスを用いた実験から、レプチンの1α-水酸化酵素現抑制作用はOb-Rbを介したものであることが見出された。 レプチンの腎近位尿細管細胞への直接作用を確認するために、マウス腎臓から近位尿細管細胞の初代培養を行い実験に用いた。しかし、1α-水酸化酵素の遺伝子発現はレプチンにより抑制されなかった。1α-水酸化酵素遺伝子発現は、細胞内cAMPの上昇により誘導されることが知られている。そこで、cAMPの活性化剤であるforskolinを添加して1α-水酸化酵素の発現を亢進させた状態を作りだし、レプチンの作用を調べた。しかし、レプチンは1α-水酸化酵素遺伝子発現を抑制しなかった。細胞内のcAMP量は、レプチン処理を行っても変化しなかった。 この細胞におけるカルシウム代謝関連遺伝子の発現を確認した。副甲状腺ホルモン受容体(PTHR)およびVDRの遺伝子発現が認められた。また、近位尿細管細胞に特異的に発現しているメガリンおよび1α-水酸化酵素の遺伝子発現が確認された。しかし、主に遠位尿細管細胞で発現しているカルシトニン受容体遺伝子の発現量は極めて低かった。このことから、この初代細胞株は腎近位尿細管細胞主体であると考えられた。この細胞でのレプチン受容体遺伝子の発現を確認したところ、細胞内ドメインの短いOb-Raの発現は見られたが、Ob-Rbの発現は全く認められなかった。 以上のことより、レプチンの1α-水酸化酵素発現抑制は、腎近位尿細管細胞への直接作用によるものではなく、他器官、組織のOb-Rbを介した二次的な作用であることが見出された。
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