昨年度の研究結果から、ヒト歯肉線維芽細胞はLPSトレランス現象を示さないことが明らかとなった。本年度は昨年度の研究の継続およびLPS以外の傷害因子としてペプチドグリカン(PGN)を用いて同様の実験を行った。 1.ヒト歯肉線維芽細胞におけるトレランス現象の検討 トレランス現象の解析は炎症性サイトカイン(IL6)の産生量を指標とした。細胞をP.gingivalis由来LPSあるいはS.aureus由来PGNで24時間前処理し、さらにLPSで24時間処理した後の培養上清中のサイトカイン量をELISAで測定した。トレランス現象のポジティブコントロールとしてマクロファージ様細胞(PMA処理を行ったヒト単球由来THP-1細胞)を使用した。細胞を0.1-10ng/mlの濃度のPGNで24時間前処理し、さらに5ng/mlPGNで24時間処理した。THP-1細胞から産生されるIL-6量は前処理なしと比較して有意に低下した(=トレランス現象)。一方、ヒト歯肉線維芽細胞では前処理を行った場合にIL-6産生量は約50%程度に低下するものの、THP-1細胞と比較すると明らかにその程度は小さかった。また、歯肉線維芽細胞は少なくとも7日間はLPS刺激により炎症性サイトカイン(IL-6およびIL-8)を持続的に産生した。 2.ヒト歯肉線維芽細胞におけるLPSトレランスの分子機構の解析 ヒト歯肉線維芽細胞をLPSあるいはPGNで刺激しても負の制御因子(SOCS-1、IRAK-M、SHIP-1)の発現は認められなかった。 以上の結果から、ヒト歯肉線維芽細胞がLPSおよびPGNに対するトレランス現象を示さないことが明らかとなった。また、歯肉線維芽細胞は炎症性サイトカインを持続的に産生することから、歯周病において炎症を持続させる主な要因は歯肉線維芽細胞であることが示唆された。
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