不可逆性歯髄炎と診断された歯髄におけるリンパ球遊走因子であるケモカインや炎症性サイトカインの発現を遺伝子レベルで解析することを第一段階の目的として、RT-PCRを行った。サンプルとしては、臨床的に不可逆性歯髄炎と診断された歯髄組織を抜髄処置時に採取し、炎症歯髄組織試料とした。また、対照として、健全歯の便宜抜髄時に爾髄組織を採取し、これを臨床的正常歯髄試料とした。その結果、ケモカインであるCCL20やIL-8、また炎症性サイトカインであるIL-1βの遺伝子発現は、臨床的正常歯髄組織にくらべ炎症歯髄組織でより強く認められた。これまでの報告においてケモカインおよび炎症性サイトカインの供給源として上皮細胞やマクロファージが有力であると考えられており、上皮組織を有さない歯髄組織においてはマクロファージがそれらの供給に重要な役割を果たしている可能性が考えられる。そこでう蝕関連細菌がマクロファージからの様々なサイトカイン産生に及ぼす影響を検討することを目的とし、マクロファージ様に分化させた細胞をStreptococcus mutansで刺激し、RT-PCRおよびELISAを行い、遺伝子およびタンパクレベルでの解析を行った。その結果、S.mutans刺激によりマクロファージにおけるCCL20、IL-8、IL-1βやTNF-αの遺伝子発現の誘導およびタンパク産生の上昇が認められた。このことから歯髄組織においてマクロファージがケモカインを産生し、病変局所のリンパ球浸潤に関与している可能性が示された。現在、歯髄の炎症局所への血管外への遊走に大きな役割を果たしていることが予想される血管内皮細胞の培養を行い、ケモカイン産生における細菌およびその構成成分の及ぼす影響について検討中である。さらに、正常歯髄から歯髄線維芽細胞を分離培養し、病変局所のリンパ球浸潤への関与についても検討中である。
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