研究概要 |
齲蝕は,脱灰と再石灰化との動的平衡が崩れた結果として生じることが判明するとともに,齲蝕病巣へのアプローチにも変化が認められてきた。従って,齲蝕リスクを低減化させ,口腔内の脱灰および再石灰化という動的平衡をいかにコントロールするかが重要と考えられている。齲窩の形成を抑制するために,歯質に生じた脱灰状態を判定することがその予防対策の立案にあたり重要な事項となる。そこで,非破壊的に物質の状態を測定可能である超音波パルス法に着目し,脱灰あるいは再石灰モデルを実験室で構築し,口腔内で応用するために基礎的事項について検討した。 まず,歯質の脱灰状態を把握するためにウシ下顎前歯の唇側エナメル質および象牙質のブロック試片を作製し,0.1M乳酸緩衝液にCa0.75mMおよびP0.45mMを加えてpH4.75に調整した人工脱灰液に10分間浸漬した後,塩化化合物を加えpH7.0に調整した37℃人工唾液に試片を移し所定期問保管した。この一連の操作を実験期間中一日二回繰り返した。その後,脱灰エナメル質および象牙質試片について超音波パルス法を用いて試片の伝播時間を測定し,得られた値と理論値から縦波音速を求めた。 その結果,人工脱灰液浸漬群では,エナメル質および象牙質伴に,浸漬期間7日後からコントロール群と比較してその縦波音速の減少に有意差が認められた。また,その縦波音速は実験期間の延長に伴い減少した。加えて試験終了後の試片の形態変化をSEM観察したところ,エナメル質では,エナメル小柱の明瞭化,象牙質では象牙細管の開口が観察され典型的な脱灰像を示し,超音波パルス法で測定した脱灰状態を裏付ける結果となった。 以上のように,超音波パルス法を用いることによって,非破壊的に歯質で生じている脱灰状態を把握することが可能であることが示された。
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