咀嚼中の口腔内では常に食片の大きさや性状、位置などが認識されており、この能力は口腔内立体認知能力といわれている。これは、食物を咀嚼するのに欠かすことのできない能力であると考えられており、そのため口腔機能の評価判定に用いるための試みとしてテストピースの形態、材質、検査法などに関する研究が盛んに行われている。しかしながら、口腔内立体認知と脳活動に関する研究は少ない。そこで本研究では、自然な環境下で、かつ完全無侵襲的に高次脳機能の動態イメージングが可能な近赤外線光トポグラフィー装置(日立メディコ製)を用いて、口腔立体認知と前頭前野機能の関係について調べた。ここでいう自然な検査環境とは、狭い空間に閉じ込められない、ある程度動くことができる、騒音がない、などの点てある。プローブは左右の前頭部をカバーするよう固定し、サンプリング間隔は0.1秒とした。課題は、探索用試料であるレジン製のテストピース(様々な形態)を、被験者の口腔内にいれ、どのような形態のものであるかを探索させた。30秒間の安静状態を記録後、課題を遂行した。課題は、30秒間の課題遂行、30秒間の安静をそれぞれ2回行うことを1セットとし、2セット行った。分析は、得られたデータを加算平均処理した結果について行った。その結果、口腔立体認知時に前頭部の酸化型ヘモグロビン上昇が確認された。このことから、口腔内における食片の大きさや形状、位置を認識すること、つまり様々な食品を咀嚼することで、前頭前野を賦活させることができることがわかった。
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