口蓋粘膜には、多くの感覚受容器が存在する。口蓋粘膜の機械的感覚は、摂食・嚥下において、舌と協調して食塊の大きさや性状のセンサーとして重要な役割を担っている。このような観点から、以前は顎堤の状態が良好で口蓋部を開放した義歯の設計が可能な患者には無口蓋義歯を製作することもあった。しかし、近年の無歯顎者は、歯周病で歯を喪失した者が多く、顎堤が劣型で無口蓋義歯の設計が難しいことが多い。よって、今日では義歯の支持や維持の観点から義歯による口蓋粘膜の広範囲の被覆が避けられない場合が多いのが現状である。そこで、我々は、口蓋を被覆しても義歯装着者がより快適に摂食・嚥下を行える義歯を探求することを目的に、研究を行っている。 今年度は、口蓋を被覆し機械的感覚を遮断した状態が摂食・嚥下に及ぼす影響を把握するため、「被覆の有無と食品認知の関係」「義歯床の口蓋部表面形態と食品認知の関係」「口蓋被覆による嚥下時の舌圧の影響」「口蓋被覆と飲み難さの関係」を明らかにした。これらの結果より、口蓋粘膜を被覆し機械的感覚を遮断することで、食品認知に対しては、主観的・客観的評価のどちらにおいても低下すること、義歯床の口蓋部表面形態は食品認知能に影響を及ぼすこと、嚥下時の舌圧においては被覆の有無で変化は認めないこと、口蓋の被覆によって飲み難さを感じるがその度合いには個人差があることが分かった。これらは、専門学会にて発表し報告した。 来年度は、これらの研究結果を紙上発表し、さらに研究を発展させる所存である。
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