研究概要 |
結腸や直腸などの下部消化管では, 上部消化管に比べ血管網や循環血液量が少ないことから, とくに活性酸素種による障害を受けやすいといわれている。一方, 近年咀嚼機能障害が全身に与える影響が注目されつつある。このため本研究では, 咬合高径変化によりおこる咀嚼機能障害の全身への影響と, 腸管神経系の傷害との間にどのような関連があるのか, またこれらの傷害に活性酸素種がどのように影響しているかを検討することを目的として研究をすすめた。 実験の手法としては, 腸管神経の中でもとくに中枢神経細胞に近いといわれる細胞 (AH細胞) の膜電位変化を指標として, 咀嚼機能障害が腸管神経系の振る舞いにどのような影響を与えているかを電気生理学的, 薬理学的手法を用いて以下の通り検討した。 単一神経細胞からの細胞内電位誘導法および阻害剤を用いた薬理学的手法を用い, 腸管神経細胞のカルシウム動員機構の解明を行った結果, 以下が示唆された。 (1) 腸管神経AH細胞にはカルシウムストアが存在し, リアノジン感受性力ルシウム放出チャネルが存在する。(2) 細胞膜にはカルシウム依存性力リウムチャネルが存在し, その性質は高コンダクタンスであると考えられる。 (3) ヒドロキシラジカルが静止膜電位の維持に関与している可能性がある。 以上を踏まえて, 咬合高径を高くした咀嚼機能障害モデルモルモットを用いて, その腸管神経細胞の膜電位変化を検討したところ, 活動電位のカルシウム相の変化傾向を認めた。この傾向は咀嚼機能障害が腸管障害と関連することを示すと考えられる。これらの詳細については現在も引き続き検討中であるが, この機構が明らかになれば, 咀嚼機能障害が全身に影響を及ぼすことへの傍証となりうる。このことは, 歯科のみならず医科領域においても基礎的にも臨床的にも極めて意義があるといえる。
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