研究概要 |
高度浸潤型扁平上皮癌細胞は,その形態が線維芽細胞様形態を呈し,上皮・間葉移行(EMT)を獲得していることを報告してきた。これらの細胞では細胞間接着因子E-cadherinの発現が低下し,基質分解酵素MMP-2が高発現を示し,またE-cadherinの転写を抑制する転写因子Snailが高い発現を示す。さらに,Snailの遣伝子導入により扁平上皮癌細胞においてEMTが誘導される。 一方,形態形成遺伝子の1つであるWntは,細胞の増殖や分化を制御しており,そのシグナルが癌化や癌の浸潤に関与する可能性が報告されているが,これらの細胞ではWnt-5aの発現が上昇することを報告してきた。本研究では,高度浸潤型扁平上皮癌細胞においてWnt-5aが高発現を示すことに着目し,どのようなメカニズムでWnt-5aが高度浸潤能の獲得に関わっているかを細胞生物学的に解明することを検討している。 まず,ヒトWnt-5a発現ベクターを作製した。Wnt-5a発現ベクターはWnt-5aを発現している歯肉線維芽細胞よりRT-PCR法により全長のWnt-5acDNAを増幅し,pcDNA6/V5ベクターに組み込むことにより作製し,これを導入したA431細胞を樹立した。この細胞ではEMTの誘導を認めず,RT-PCRにてWnt-4の発現低下,E-cadherin, Cytokeratin18,MMP-1の発現上昇を認めた。また,この細胞においてそのシグナル伝達を担うprotein kinase Cおよびcalmodulin-dependent protein kinase IIの活性化の上昇を認めた。また再構成三次元培養法を用いて,浸潤様式の検討を行ったところ,コントロールのA431細胞に比較し,細胞間接着を保ったまま索状に連なる強い浸潤像を示した。 以上の結果より、Wnt-5aにはEMTの誘導能を認めないが,そのシグナルを活性化しながら癌の浸潤能を亢進させることが示唆された。
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