アクアポリン(AQP)は細胞膜に存在する膜蛋白質であり、浸透圧勾配の差によって水を輸送する水チャネルとして機能する。AQPは全身のほぼ全ての臓器に存在しており、ヒト唾液腺ではAQP5が唾液分泌に重要な役割を担っている。また、遺伝子のプロモーター領域に存在するCpGアイランドのメチル化は、種々の遺伝子発現を抑制することが示されており、細胞をDNA脱メチル化剤にて処理すると、不活性化されている遺伝子の再活性化につながることが予測されている。本研究においては、不死化ヒト唾液腺導管細胞株(NS-SV-DC)を用いてAQP5の発現誘導とそのメカニズムに関する検討をおこなった。AQP5を発現していないNS-SV-DC細胞をDNA脱メチル化剤(デシタビン;2μM)によって処理するとAQP5の発現が誘導された。また、デシタビン処理によって発現誘導されたAQP5は、NS-SV-DC細胞のnet fluid secretionを増加させたことから、このAQP5は水チャネルとして機能していることが確認された。次に、Bisulfite sequence法によりAQP5遣伝子プロモーター領域内のCpG脱メチル化部位の解析を行った。転写因子結合領域にはSp1結合領域が3か所、AP2結合領域が1か所存在するが、上流より2番目のSp1結合領域にあるCpG(上流から24番目のCpG;24thCpG)と3番目のSp1結合領域近傍にあるCpG(上流から31番目のCpG;31stCpG)が高頻度に脱メチル化されていた。これらCpGの脱メチル化とAQP5プロモーター領域の転写活性との関連をルシフェラーゼアッセイにて解析すると、24thCpGと31stCpGが共に脱メチル化された条件が最も高い転写活性を有していた。したがって、これら2か所のCpGの脱メチル化がAQP5の発現に重要である可能性が考えられた。
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