今回、唾液腺の分泌機能低下防止のために導入に用いようとしている延命関連遺伝子はIdlおよびhTERTである。正常細胞の不死化には癌ウイルスや癌遺伝子を導入することが一般的であるが、本研究は正常細胞を正常なphenotypeを保持したまま延命することが目的であるのでこれらを用いることは適当でない。 今回、まずhTERT遺伝子導入を唾液腺正常培養細胞に導入した。特にhTERTは染色体末端のテロメア配列を延長することにより寿命を延長する酵素テロメラーゼの触媒サブユニットであり、hTERT導入もまた、様々な細胞の寿命延長を引き起こすことは既によく知られている。インフォームドコンセントを得た患者より採取した正常唾液腺組織を無菌的にメスで細切したのち、無血清、低カルシウムの培地KGM(keratinocyte growth medium)にて5%CO_2下で培養を行い用いた。また、もう一つの候補遺伝子であるId1に関しても遺伝子導入を行った。Id1はHelix-loop-helix型(HLH型)タンパク質であり、一般に細胞の分化を阻害することが知られている。ヒト角化細胞や血管内皮細胞などに導入すると細胞の癌化不死化は引き起こさないが著明な細胞分裂寿命の延艮を起こすことが知られている。hTERTおよびId1ともに導入唾液腺培養細胞は培養ディッシュ上では形態などに特に変化を認めなかった。特にhTERT導入細胞では導入前の細胞に比ベテロメア長が延長しており、おそらくは遺伝子導入の効果によるものと考えられた。このような細胞は長く分裂することが可能であり、今後、染色体レベルや遺伝子レベルで安全性が確認されれば、臨床応用可能な細胞として使用できる可能性に期待がかかる。
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