研究概要 |
全身,あるいは局所に加わる種々のメカニカルストレスは,生体の骨代謝調節に大きな影響を及ぼす。歯学領域では,歯に負荷される持続的なメカニカルストレスが歯槽骨のリモデリングを引き起こすことが知られている。しかし,一般的には力学的負荷は骨形成を促進させるという概念として理解されており,歯の移動時には力学的負荷が加わった部位に骨吸収が生じるといった,相反するものである。この点に関しては,歯根膜が重要な役割を果たしていると考えられているが,未だ明らかとされていない。近年,歯根膜や骨膜に限局して存在するメカニカルストレスに関連した新規タンパクとして,ペリオスチンが見い出された。我々はこのペリオスチン遺伝子が実験的歯の移動や,咬合圧の減少に伴い歯根膜に強く発現することを見いだした。また,このペリオスチンのノックアウトマウスでは,歯根周囲の歯槽骨での破骨細胞の活性化,それに伴う骨吸収や歯根吸収が認められ,局所的な骨代謝に深く関与していることがわかる。これらより,このペリオスチンがメカニカルストレスにより引き起こされる骨リモデリングと歯根膜の関係を明らかにするのに重要な鍵を握っていることが分かる。当該研究では,ミズーリ大学カンザスシティー校Jian Q. Feng博士より,ペリオスチンノックアウトマウスの供与を受け,その繁殖を行った。これらの生態的特徴を観察することにより,ペリオスチンノックアウトマウスでは野生型マウスに比べ体躯が小さく,切歯においてエナメル質の減形成が生じることが確認された。次に,このペリオスチンノックアウトマウスに対し,我々が確立したマウスの歯の移動実験系を用いて上顎第一大臼歯にメカニカルストレスを負荷した。その周囲歯槽骨の組織学的検索を行うことにより,歯周組織リモデリング時におけるペリオスチンと骨系細胞の関係の解析を行っている。
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