研究概要 |
【目的】 歯根膜組織へのメカニカルストレスに対する分子生物学的メカニズムと歯根吸収の原因の解明を行うことを本研究の目的とする。正のメカニカルストレスの一つである重力負荷(超低速遠心機による遠心)と負のメカニカルストレスである半無重力(回転三次元培養システム)を負荷し、矯正歯科治療における圧迫側・牽引側の両方に類似の組織環境を作り出す。そこから正負のメカニカルストレスに応答する一連の骨代謝関連遺伝子群を選択的、網羅的に検索し同定する。初年度は正のメカニカルストレスの一つである超低速遠心機による遠心重力負荷の条件を、一般的な培養細胞であるマウス骨芽細胞株MC3T3-E1細胞を用いて分子生物学的手法を用いて検討を行った。 【材料および方法】 細胞培養と重力負荷:マウス骨芽細胞株MC3T3-E1細胞を、60mmの培養皿にて10%FBS含有□MEM中で約7日間培養した。培養皿をCO2インキュベーター内に設置した低速遠心機のスイングローターにセットし、遠心することで細胞に重力(gravity, x g)を負荷した。遠心による重力負荷は、3xg(120rpm)、5xg(160rpm)、7xg(200rpm)を用いた。ATPおよびLDHの測定、ウエスタンブロッティングによるERKのリン酸化の解析、RT-PCR法によるCyclooxygenaase-2(COX-2)mRNA発現量の検討を行った。 【結果および考察】 MC3T3-E1細胞にメカニカルストレスの一つである重力を負荷すると、ATPが放出され、COX-2mRNAの誘導およびERKのリン酸化が観察される。またATPを直接添加しても同様な現象が見られた。このことは、MC3T3-E1細胞において、重力負荷がATPをメディエーターとしてERKを介したシグナルを細胞内に伝達しているように見受けられる。しかしながら、ATPの水解酵素であるapyraseを大量に投与した場合、ATP負荷によるERKのリン酸化は阻害されるが、重力負荷によるERKのリン酸化は阻害されなかった。このことから重力負荷はATPを介した経路とは別な経路によってERKをリン酸化していることを示唆するものである。
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