【目的および経過報告】歯根膜組織へのメカニカルストレスに対する分子生物学的メカニズムと歯根吸収の原因の解明を行うことを本研究の目的とする。正のメカニカルストレスの一つである重力負荷(超低速遠心機による遠心)と負のメカニカルストレスである半無重力(回転三次元培養システム)を負荷し、矯正歯科治療における圧迫側・牽引側の両方に類似の組織環境を作り出す。そこから正負のメカニカルストレスに応答する一連の骨代謝関連遺伝子群を選択的、網羅的に検索し同定する。 平成18年度は正のメカニカルストレスの一つである超低速遠心機による遠心重力負荷の条件を、一般的な培養細胞であるマウス骨芽細胞株MC3T3-E1細胞を用いて分子生物学的手法を用いて引き続き検討を行った。平成19年度に、本学倫理委員会にて「ヒト歯根膜細胞を用いた実験」が承認され、18年度の基礎データーを基に、ヒト歯根膜細胞を用いてメカニカルストレスを負荷し遺伝子の解析を行った。 【結果および考察】平成18年度の研究結果より、MC3T3-E1細胞にメカニカルストレスの一つである重力を負荷すると、ATPが放出され、COX-2mRNAの誘導およびERKのリン酸化が観察された。更に、細胞外のカルシウムを完全に除去すると、重力負荷の場合もATP負荷の場合も共にERKのリン酸化が完全に消失した。このことは重力負荷もATP負荷も共にカルシウムの細胞外からの流入がトリガーとなっていることを示すものである。したがって、重力負荷では、カルシウムチャネルを介するシグナル経路とATPを介するシグナル経路の2つの経路を賦活する事が示唆された。また、同様の実験方法にてメカニカルストレスを負荷したヒト歯根膜細胞を用いて遺伝子発現をDNAチップおよび定量PCR法を用いて検討した。伸展負荷においては、負荷3時間でCOX-2とIGF-1が誘導され、controlと比較してmRNA発現が16倍に増加した。また、圧迫負荷では5時間でIGF-1のMRNA発現量が4倍に増加した結果が得られた。またDNAチップの結果については考察検討中である。
|