歯科矯正治療において、『固定』の概念は非常に重要であり、移動が必要な歯だけではなく、移動してはいけない歯までもが動いてしまうことが問題となる。そこで、本研究では、骨代謝を薬理学的にコントロールする事によって、歯の移動量や移動速度が制御可能になるのではないかと仮説を立て、矯正学的歯の移動時における骨代謝の解明ならびに、骨代謝のコントロールによる歯の移動実験を行うこととした。平成20年度の研究業績として、昨年度に引き続き、破骨細胞に作用する蛋白ならびに薬剤として、OPG蛋白に注目し、各種ベクターや大腸菌など、蛋白発現システムを用いてリコンビナントOPGの作成を行っている。また、in vivoにおいての実験では、過去の様々な実験はラットを用いたものが多かったが、本研究では将来的に、遺伝子的な解析を含めることを考慮し"マウス"を用いた歯の移動実験を行っている。マウス臼歯は、ラットに比較して著しく小さく、装置装着が困難であったが、現在までのところ、一週間までの持続的矯正力の付与が可能となった。また、本研究では骨代謝の変化がより明らかに現れるよう、OPG KOマウスを使用し実験を行っている。OPG KOマウスは、破骨細胞抑制因子であるOPGが遺伝子的に欠損していることから破骨細胞の活性が全身的に上昇しているモデルマウスである。このOPG欠損マウスを用いることによって、Wild typeマウスに比較し歯の移動速度が大きく、移動3日後から歯根膜における破骨細胞数が上昇し、周囲歯槽骨の吸収が多く認められた。以上の結果から、破骨細胞の活性は、歯の移動において重要であり、また、周囲歯槽骨を維持するためにも破骨細胞の活性の制御は重要であることが考えられた。今後は、この破骨細胞の活性を抑制する薬剤を投与し、実験を継続していく予定である。
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