研究概要 |
本研究は,歯肉線維芽細胞を用いた培養系に糖尿病-歯周病相互作用のコンセプトを再現して,糖尿病患者における歯周病悪化の病態形成に関わる因子を網羅的に捉えることを目的に実施した。以下に,本研究成果を示す。 【材料および方法】 1.細胞および培養:ヒト歯肉線維芽細胞を,グルコース濃度,25mM(高血糖),5.5mM(健常血糖)あるいは5.5mMグルコース含有培地に19.5mMマンニトールを加えた実験系(浸透圧対照)に設定した培地で培養し,3回継代培養したものを実験に供した。 2.遺伝子マイクロアレイ解析:高血糖による遺伝子発現の変化は,通法に従い遺伝子マイクロアレイ法で解析した。mRNA発現量はHuman Genome U133A Array(Afymetrix:14,400遺伝子)を用いて調べた後,Gene Spring Software(Silicone Genetics)を用いて解析した。解析した遺伝子群は,高血糖によって発現量が増減した遺伝子群の中で,その変化の程度が大きい遺伝子から,それぞれ250遺伝子ずつ,計500遺伝子とした。 3.定量PCR(遺伝子マイクロアレイ解析の評価):上記2で得られた遺伝子群の中から,文献的に歯周病の悪化をきたす9種類の遺伝子を選択した後,通法に従い定量PCR法を用いて,その遺伝子の発現量を定量し,遺伝子マイクロアレイ解析の結果との整合性を評価した。 4.マトリックスメタロプロテアーゼ3(MMP-3)産生量の測定:細胞のMMP-3産生量は,市販のELISAキット(R&D)を用いて定量した。MMP-3濃度の有意差は,Student's t-testを用いて検定した。 【結果】 1.高血糖状態において,著明に変動した500遺伝子は代謝酵素や転写制御に関わるものが多かった。また,定量PCRを行った9遺伝子のうち6遺伝子の発現様態は,遺伝子マイクロアレイ解析の結果と相応した。 2.高血糖状態で培養した歯肉線維芽細胞のMMP-3産生量は有意に増加した(P<0.05)。 【結論および考察】 高血糖によって,歯肉線維芽細胞の複数の遺伝子発現の様態が変動した。とりわけMMP-3産生の亢進によって糖尿病患者に見られる歯周病悪化に関与することが示唆された。
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