研究概要 |
本研究は,歯肉線維芽細胞が発現するHLAクラスII分子の生理的役割ならびに慢性炎症組織において線維芽細胞が果たす機能の一端を明らかにすることを目的としている。本年度は,プロテインマイクロアレイの手法を用いて,HLAクラスII分子を介したシグナル伝達物質の網羅的な解析を行った。 3名の健常者ドナーより樹立した歯肉線維芽細胞をIFN-γで処理することによって,HLAクラスII分子を発現誘導させた。その後,抗HLAクラスII分子抗体(L243抗体)と陰性対照抗体で刺激し,それぞれタンパク質を抽出した。回収したタンパク質群を標識試薬(蛍光色素Cy3およびCy5)でラベルし,等量のタンパク質混合試料を抗体アレイにアプライし,スキャンした。抗体アレイはPanorama Ab microarray(SIGMA社)を用い,Genepix 4000B microarray(Amersham社)にてスキャンし,Array visionでデータ解析を行った。解析結果から,L243抗体刺激により,FAK, JNK, Rafといったシグナル伝達に重要なタンパク質のリン酸化が増強された。とりわけ,FAKは種々のリン酸化が見られ,'強烈に活性化されている可能性が示された。 歯肉線維芽細胞のHLA分子は,会合分子を有してシグナル伝達をするといわれていることから考察すると,会合分子からFAK,JNK,Rafなどのシグナル伝達経路を経て,RANTES,MCP-1,IL-8,IL-6といったケモカインやサイトカインの産生を誘導していることが考えられる。また,FAKは細胞膜直下に存在していることから,この分子と結合している.インテグリンなどの膜貫通分子がHLA分子と会合している可能性が予測される。 次年度は,FAKとHLA分子との会合形態,さらには,それによって惹起される表現型に関する検討を進めていく予定である。
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