研究概要 |
マレイン酸イルソグラジン(IM)層は,Helicobacter pylori刺激によって誘導される胃粘膜上皮細胞のIL-8産生を抑制し,ギャップジャンクションを介した細胞間コミュニケーション能を促進する作用を有している。IMはA.actinomycetemcomitans (Aa)の刺激によって誘導される歯肉上皮細胞の細胞間コミュニケーションの抑制や,サイトカイン産生を調節する可能性がある。本研究では,IMがIL-8産生とギャップジャンクション及びタイトジャンクションに及ぼす影響について調べた。 ヒト歯肉上皮細胞(HGEC)にAa及びIMを作用させ,培養上清中のIL-8をELISA法で分析した。IL-8産生はAa刺激で増加したが,IMはその増加を抑制した。 HGECにAa, IL-8,及びIMを作用させ,mRNAレベルでギャップジャンクションの構成タンパク質であるコネキシン43(CX43),タイトジャンクションの構成タンパク質であるオクルディン,クローディン,ZO-1のmRNA発現を分析した。CX43,オクルディン,クローディン,ZO-1 mRNA発現は,Aa刺激で減少した。Aaと共にIMを添加した場合,CX43,オクルディン,クローディン,ZO-1 mRNAの発現の減少は回復した。CX43 mRNAはIL-8の作用によって減少したが,IMを同時に添加した場合,CX43 mRNA発現の減少は抑制された。しかしながら,IL-8はオクルディン,クローディン,ZO-1のmRNA発現には影響を与えなかった。 歯周病原性細菌の刺激によって誘導されるIL-8は歯肉上皮細胞の細胞間接着能を低下させると考えられる。IMは歯周病原生細菌によって歯肉上皮細胞から誘導される炎症性サイドカインの発現を抑制することによって,上皮細胞の接着を回復し,歯肉上皮組織の機能を維持する可能性が示唆された。 このようなデータの結果を踏まえ最終年度となる来年度はIMの歯周病予防薬としての有用性についてさらに検討を進めたい。
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