研究概要 |
申請者の所属講座では薬物誘発性歯肉増殖症の発症機構の研究を行っており、これまでに動物モデルを用いて歯肉増殖症が、カルシウム拮抗剤などの薬物による歯肉線維芽細胞上のα2インテグリン発現の抑制によって生じることを見出した。そこで、α2インテグリンを薬物誘発性歯肉増殖症の疾患候補遺伝子と考え、その遺伝子のエクソン7上に存在するα2インテグリン+807T/Cの一塩基多型(SNP)と歯肉増殖症の発症との関連を調べ、+807Cアレルが歯肉増殖症の遺伝的リスクファクターの一つであることを示した。しかしながら、+807T/C変異ではアミノ酸変異は起こらず、他のSNPと連鎖している可能性が考えられた。そこでさらに、本研究においてアミノ酸変異を引起こす多型である+1648A/Gについて歯肉増殖症の発症との関連を検討した。 被験者は徳島大学病院および新潟大学病院に通院中の136名の歯肉増殖症誘発薬剤服用患者とした。患者からの末梢血の採取は各大学のヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理審査委員会の承認を得た後、患者の同意を得て行った。なお、歯肉増殖症の判定はMacGawらの基準に従い診断した。被験者より採取した血液よりDNA extraction kitを用いてゲノムDNAを抽出した。α2インテグリン+1648A/GのSNPを含む領域に特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを設計し、各被験者のゲノムDNAをテンプレートにしてPCRを行いDNAを増幅し、精製した。DNAシークエンスはキャピラリー型シークエンサーを用いて行った。 シークエンス分析が困難な試料を除き、歯肉増殖症患者41名、非増殖症患者57名(計98名)のデーターについてFisherの直接確立検定により統計分析を行った。その結果、α2インテグリン+1648A/Gの遺伝子型は、非増殖症群ではG/G型が91.2%,G/A型が7.0%,A/A型が1.8%であったのに対し、増殖症群ではG/G型が92.7%,G/A型が7.3%,A/A型が0.0%であった。アレル頻度について増殖症群では+1648Gアレルが96.3%,同Aアレルが3.7%であり、非増殖症群では+1648Gアレルが94.7%,同Aアレルが5.3%であった。増殖症群と非増殖症群の差を統計分析したところ、P=0.85であり、両群間に統計学的有意差は認められなかった。なお、本結果はThe 1^<st> International Symposium and Workshop "The Future Direction of Oral Sciences in the 21^<st> Century"(March2,2007,Hyogo)にて発表した。
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