目的: 先行研究において、好中球を枯渇させたマウスの創部では、線維成分が増加し、炎症期から肉芽期への移行が遅延することを明らかにした。また、糖尿病マウスを用いた予備実験においても、創部にみられる線維成分が増加することを確認した。そこで、糖尿病マウスの創傷治癒過程を対照創および好中球枯渇創の治癒過程と比較観察し、形態学的に明らかにすることを目的とした。 方法: 糖尿病群および対照群マウスの背部皮膚に切開創を作製し、受傷後1、3、5、7、15日目にデジタルカメラで創部周囲を撮影した後、創部皮膚組織を摘出し、光学顕微鏡下で観察した。なお、糖尿病群は血糖値と尿糖値を測定し、高血糖状態であることを確認した。 結果: 1.肉眼的観察 対照群の創幅は経時的に縮小したが、糖尿病群は治癒に個体差がみられた。受傷後15日目には、両群ともに創部は瘢痕化していたが、糖尿病群は創幅が広いままであった。 2.顕微鏡観察 受傷後1日目では、対照群の好中球は痂皮下に集積していたが、糖尿病群の好中球は痂皮下に集積せず、5日目まで創部に散在していた。5日目の対照群では、表皮が回復し、創部表層から中層にかけて肉芽を形成していたが、糖尿病群では表皮は回復せず、創部中層に線維成分が残存し、肉芽は創端から創部深層にみられた。7日目の糖尿病群では、表皮が形成され、肉芽が創部全体でみられた。15日目では、対照群は正常皮膚の形態とほぼ同様の回復を示したが、糖尿病群は創幅が広く、膠原線維束の構築も対照群より疎であった。 考察: 糖尿病群では、好中球が痂皮下に集積せずに創部に散在していた。また線維成分が分解されずに創部に残存し、肉芽形成が限局していた。これらのことから、糖尿病群では、高血糖状態により、好中球機能が低下し、炎症期が延長したと考える。
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