心臓移植待機患者のように、非常に特殊な体験をし、人間の生死に直結した次元におかれている患者の病いの経験を垣間見るには、量的データや、データを抽象化した構成概念を抽出するよりも、質的なアプローチのほうがより患者の病いの経験の本質に近づくことができると考える。移植医療がいまだ定着しない日本においては、患者の病いの軌跡を丁寧に帰納的に分析し、心臓移植待機患者の病いの経験を明らかにすることによって、心臓移植待機患者への看護にひとつの方向性を見出すことが出来るのではないかと考え、本研究に取り組んでいる。 平成18年度は、(1)研究テーマに関連した文献検討、(2)研究方法論と調査概要の検討を行った。 (1)研究テーマに関連した文献検討-「病いの経験」に関する医療人類学的ならびに看護論的視点から検討した。その結果、心臓移植を待機する患者の「病いの経験」はきわめて個人的な生きられた経験であり、患者の「病いの経験」を垣間見るためには、「日常性への接近」が可能となる研究方法論の検討が必要であるとの結論を得た。 (2)研究方法論と調査概要の検討-研究参加者が身体的・精神的に安定した状態で研究に参加することを考慮する必要があると考え、心臓移植医の指導のもと研究方法論を再検討した。研究参加者は、心臓移植を終えた患者で、移植後の外来フォローを行っている主治医によって、身体面・精神面が安定しており、本研究のインタビューに参加することにより身体面・精神面が不安定となる可能性が少ないと判断された患者とすることとした。また調査の具体的な方法として、参加の依頼方法、倫理的な配慮、データ収集方法(場所、時間、インタビューのスタイル)について検討した。
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