研究概要 |
平成19年度は2名の心臓移植者へのインタビューを実施し、個々の「病いの経験」の意味を解釈した。引き続き平成20年度は、データ分析とまとめ、成果発表のため論文作成に取り組んだ。個々の「病いの経験」を探求するプロセスで見えてきた移植看護の視点は以下の5点である。1) 高度医療の只中で苦悩しながら、心臓移植に生への一縷の希望を託し生き抜く患者に対し, 恐怖や怒り、悲しみなどの自然的感情を押し殺すことなく徹底的に開放するケアの場が必要である。2) 長期にわたる入院生活や待機する現実は、患者と日常世界との断絶を意味する。看護師は日々のケアの中で、患者一人ひとりの日常世界の再現が可能となるような働きかけが必要である。3) 様々な専門家集団がそれぞれの垣根を越え、患者を中心としたケアの実践を可能とするためのチーム医療の推進が必要である。また、移植医療や看護が社会的に開かれた存在であること、移植を待機した経験者や患者同士が支えあえるような開かれたサポートシステムの構築が必要である。4) 過酷な状況下にある心臓移植を待機する患者を支えるためには、看護師個々での対応では限界があり、チームアプローチが必要である。また、患者によりよいケアを提供するためには、ケアするものの困難さを解放するリエゾンアプローチが必要であろう。5) 移植医療に関わる者として、脳死や臓器移植を取り巻く生や死の問題、生命倫理や社会的・文化的背景など、新たな生命観について包括的に理解し、多様な生命観や価値観を受け入れる柔軟性が必要である。 今後も研究参加者を積み重ね、個々の経験から移植看護の方向性を具体的に示していくことが課題である。研究成果の報告としては、平成20年に第44回日本移植学会で学会発表を行った。論文は看護系学会誌に現在投稿中である。
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