前年に実施した文献レビューでは、効果的な糖尿病自己管理教育のためには行動理論に基づくことを強調した文献が多かった。これを踏まえて今年度は、糖尿病患者の行動変容をもたらす健康行動理論として、多くの文献で取り上げられている、BanduraのSocial cognitive theory、特にその主要概念であるself-efficacyに着目した。Banduraの原書を精読したところ、理論上、self-efficacyは遂行行動の達成によっても高められるため、横断調査によって行動とself-efficacyに関連性が認められても、self-efficacyを高めた結果として行動変容がもたらされたことの証明としては不十分であると考えられた。また、観察的な縦断研究によって高いself-efficacyを持つ患者が行動変容を起しやすいことが示されたとしても、これはどのような教育的介入がself-efficacyを高めるのかについての解を与えるものではない。したがって、理論に基づく効果的な糖尿病自己管理教育を考える上では、self-efficacyを高める介入効果をランダム化比較対照試験によって検証した研究に限定してevidenceを精査する必要があると考え、文献レビューを実施した。 研究者が単独で行った文献検索では、PubMedにより8件が得られた。しかし、そのすべてがself-efficacyと行動の因果関係を示すには不十分な結果であった。このことは、糖尿病の自己管理教育でself-efficacyを用いることの理論的妥当性、あるいは測定尺度の感度や反応性の問題など、既存のevidenceに対して大きな疑問を投げかける結果として重要な意味を持つ。今後は、この原因の精査をさらに進めるとともに、他の研究者にも協力を依頼し、文献検索の精度を高めることが課題である。
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