研究概要 |
Clostridium difficileは,抗菌薬関連下痢症の主要な原因菌で,院内感染の原因菌としても重要である.がん患児は,抗がん剤治療のため長期入院を余儀なくされ,ほぼ全例で抗がん剤使用中に腹痛や下痢症等の症状が生じるが,細菌学的検査が行われていないことが多く,C. difficile感染症の実態は不明である.長期入院中がん患児におけるC. difficile感染予防のための簡単で効果的な排泄ケア方法の確立を最終目的として,C. difficileの消化管保有及び院内伝播の実態を調査した. 対象は,血液腫瘍疾患で抗がん剤治療を受けた5歳〜15歳の患児.糞便中の毒素検出及びC. difficile分離培養を行い,分離菌株においては毒素産生パターンの同定,PCR ribotypingによる解析を行った.さらに付添いの状況や手指衛生等に関する調査をした. 長期入院中の抗がん剤治療中のがん患児9名のうち,8名からC. difficileが分離された.そのうち,6名は,入院時にC. difficileは分離されなかったが,入院経過中に培養陽性となったことから,院内獲得の可能性が示唆された.8名中5名からtoxinA^+B^+のC. difficileが分離され,そのうち2名はC. difficile関連下痢症/腸炎(CDAD)と診断され,バンコマイシンによる内服治療が必要であった.このことから,小児がん患児においては,CDADは稀な感染症ではないことが明らかとなった.8名の患児から分離されたC. difficileの菌株でPCR ribotypingを行った.2名が同一のタイプであり,水平伝播の可能性が示唆されたが,その要因を明らかにできなかった.小児病棟では家族の付き添いが多く,がん患児の排泄ケアは患児自身や家族が全て行っており,看護師は行っていなかった.排泄ケア後の患児や家族が行う手指衛生は,数秒間の水洗か,ウェットティッシュで手指の清拭をするのみであったことから,患児や家族に対して,手袋の着脱を含めた手指衛生の指導を実施することが重要であると考えた.
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