不妊治療後に妊娠した女性妊娠期における自己認知を明らかにすることを目的に、体外受精を受けて妊娠初期〜中期にある初産婦8名に、Aguirela & Messickの問題解決型危機モデルの視点を生かした半構成的面接法を実施した。 以下に抜粋した対象に自己認知の過程の途中経過を報告する。 不妊を意識し始めた頃は問題志向的対処を働かせていたが、【治療による苦痛】や【わかってもらえないあきらめ】を知覚する中で、対処は情動的となった。あるいは【治療中止への迷い】を感じても妊娠を断ち切る決断ができず【治療中止決定からの逃避】をしていた。 妊娠してからは状況にみあわない【胎児喪失への不安感】をもち、胎児を思いやる『母親としての自己』と予防的に【次回の不妊治療を考える】『不妊としての自己』が共存し、その不安と情動的対処や防衛的対処で軽減していた。 しかし【胎児喪失への不安感】や情動的対処を【現在の対処では問題解決できない】と知覚し始め、問題志向的対処の出現、情動的・防衛的対処の消失へ変化し、次第に現実を【異常ではない】と受け止めていった。また【次回の不妊治療を考える】『不妊としての自己』は【今回の出産に向かうべき】『母親としての自己』となり、悲嘆作業によって【不安を素直に表出できる】【不妊にこだわる】自分に気づき、周囲への【わかってもらえないあきらめ】から【助けてもらうように働きかける変化】を知覚するようになった。 多くは胎児と同時期に「母親としての自己」が出現するが、胎動前では胎児喪失への不安感が強い者もおり、いかに現実の状況に即した感情に変えていけるかが重要な支援となる。胎動初覚後も不妊期の喪失体験が強く残る者は「不妊としての自己」から「母親としての自己」への移行が困難であるため、不妊期の悲嘆作業を行い、過去の自分の気持ちや対処の意識化および対象自身の変化の部分、例えば肯定的感情の増加や対処の変化などの意識化が重要な支援となる。
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