昨年度までの筆者の研究において、ADHD児の母親は健常児の母親と比較して育児ストレスが有意に高く、ADHD児の行動特徴が顕著なほど母親は愛着を感じておらず、その結果、否定的で厳格な養育態度になることが明らかとなった。この結果は、母親の愛着がうまく形成されないために家族機能が損なわれていることをうかがわせている。 そこで今回の研究では、ADHD児の母親の愛着様式の特徴を質的に明らかにするため半構造化面接を実施し、以下のことが明らかとなった。(1)就学前は、児の問題行動に対して母親は厳しく叱る傾向にあった。(2)児の行動面の問題が大きくなってくるのは主に小学校入学後で、母親は周囲(保護者や先生)からのクレームを受けて困惑し、自責の念が強くなる傾向にあった。このような感情を受けて児への愛着感も揺れ動いていた。(3)診断を受けたことで安心したと語った母親が殆どであり、問題行動の原因が分かることで子どもの行動の見方が変化していた。(4)母親は熱心に療育に取り組んでいる反面、「できることならこんな苦労はしたくなかった」、「こんな子どもは欲しくなかった」、「憎らしいと思うけど、かわいい。寝顔を見ては怒ったことを反省して自己嫌悪に陥って泣く」と答えていた。ADHD児の母親は、児の問題行動に直面すると憎らしいと思ったり、厳しく叱ったりするが、そうでない状況にある場合はやはりかわいいと感じている。これらのことから、母親の児に対する感情は両価的であること、また内面での葛藤が相当な程度生じていることが伺われる。
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