研究概要 |
本研究の目的は,母児分離を余儀なくされた母親に対する母乳育児支援の課題を明らかにすることである。そのためケアの受け手と担い手の双方からデータを収集し,分析を行う。平成18年度は,ケアの担い手である看護職者(産科,Neonatal Intensive CareUnit;NICU)の「母乳育児を成功させるための10力条」に対する認識と実際のサポートを調査した。平成19年度は調査結果の集計,学会発表,次年度の準備を行った。下記に調査結果の概要を報告する。 1989年にUNICEF/WHOは母乳育児がスムーズに始められ確立されることを目的に「母乳育児成功のための10力条」(以下「10力条」と記載)を共同宣言として出した。この「10力条」は母乳育児を支援するために必要とされる,主に産科でのケア,業務をまとめたものであり,産科サービス,新生児のケアに関わる全てのスタッフがこの「10力条」を実践すれば,どのような状況であっても母乳育児はでき,増加させられるということが多くの研究で証明されている。しかしながらNICUのように長期の母児分離状態を余儀なくされる場合,「10力条」のとおりにケアが遂行されるとは限らない。今回,産科,NICUの両看護職員がもつ「10力条」の意識とその実践を調査した。結果,産科67名(64.4%),NICU123名(78.8%)から回答を得た。「10力条」に対して『内容を知っている』と回答した者は産科49名(73.1%)であったのに対し,NICU32名(26.0%)であった。『母乳の飲ませ方をその場で具体的に指導する』『母親に母乳の分泌維持の方法を教える』ことが《とても重要であると思う》と回答した者は産科,NICU共に60%を超えたが,実際に母親に母乳分泌維持の方法を教えていたのは産科49名(73.1%),NICU60名(48.8%)であった。NICU看護スタッフは98名(97.0%)がNICUで直接母乳の観察・介助を行っていたが,自信を持って観察,介助していたのは19名(19.4%)のみであった。これらより,看護職者の「10力条」に対する認識とそれに基づく支援が不十分であることが示唆された。次年度は本結果をふまえ,具体的な母乳育児支援の問題点(認識,知識,技術,その他)とケアの受け手から見た母乳育児支援の実際を検討する。
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