職場の生産性と職員の精神的健康水準の双方がともに向上することのできる職場風土の醸成を目的とした保健活動の具体策を検討するため、平成18年度〜19年度に実施した調査内容を統合したモデル試案の作成を試みた。特に、平成19年度に実施した面接調査によって抽出された内容を柱とし、生産性と精神的健康の両立が実現される組織の在り様と、その在り様を実現するための実践的要因の関連性を質的に検討し、良好な風土を有する組織において職業体験を積み重ねることの意義について検討した。検討の際は、調査結果をフィードバックした際に得られた職場の意見等も参考にした。 勤労者は職業人としての能力を研鑽すると同時に、研鑽に応じた成果が感じられるよう示唆や教育によって適宜導かれることを求めていた。同時に、職業生活を通して人として成熟していく自らを実感することも求め、さらに他者にも成熟した人間であることを求めていることから、現役勤労者のメンタルヘルスを支えられる生産性の高い職場は、職員各々が、ともに個人としても職員としても成熟し高めあえる関係性・組織運営のパターンを持っていることが必須要件と考えられた。そのような職場を実現するためには、日常業務の中で示される経営者や管理職の姿勢が人を生かし育てるものであることが重要であると同時に、生活の中で心理的なストレスを抱えたり対人関係等でつまずきを覚えたりした際に、人間としての発達を個別に支援できる援助職の存在が有効と考えられた。 現在、組織ごとに人事管理やメンタルヘルス対策であらゆる試みが実践されているが、両者が融合した形の実践はあまり報告されていない。既に試みられている活動の効果とその関連性を客観的に捉えなおし、人事管理と健康管理を融合させたコンテクストで関係者が協働して職場組織づくりに取り組むことが、生産性と健康を両立させる職場風土の醸成と職場全体の健康水準を向上させるための最重要課題と考えられた。
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