研究概要 |
染色体転座由来軟部肉腫の多くは、一般的に頻用されている各種抗がん剤に耐性を示し予後も悪いことから、より効果的な抗がん剤の適用や新規創薬が急務の課題となっている。染色体転座由来キメラ遺伝子産物が転写因子として機能する場合、その標的遺伝子の異常な転写活性化が、腫瘍の発生や進展に極めて重要な役割を担っていると示唆される。そこで、5種類の染色体転座由来軟部肉腫組織からmRNAを抽出、大規模マイクロアレイ解析を実施し(全139例)、各腫瘍において特異的に高発現している分子を同定した。これらの腫瘍の中で、キメラ転写因子ASPL-TFE3を発現するAlveolar Sofg Part Sarcomaでは、レセプター型チロシンキナーゼc-MetのmRNAが特異的に高発現していた。ASPL-TFE3はc-Metのプロモーター領域に直接結合し、この転写活性を著明に亢進させ、c-MetのmRNA及び蛋白量を著しく増加させていることが明らかとなった。過剰発現したc-Met蛋白質では、c-MetのリガンドであるHepatocyte Growth Factor非依存的にチロシンキナーゼ活性が亢進しており、この下流でPI3-kinase、及びMAPKシグナル伝達経路が著明に活性化、細胞増殖能及び転移能を著しく亢進させていることが明らかとなった。また、これらはsiRNAによるc-Metのknock-down、及びc-Met特異的阻害剤(Pfizer)、PI3-kinase及びMAPKシグナル伝達経路特異的阻害剤の併用によって有意に阻害された。これらの結果は、2007年2月発行のCancer Researchにおいて報告された(Tsuda M, et al.2007 ; Cancer Res.67(3):919-29)。また、キメラ遺伝子産物SYT-SSXを発現するSynovial Sarcomaにおいては、ある種のチロシンキナーゼ阻害剤がその増殖能や細胞運動能を著明に低下させることが明らかとなった(特許出願:2007-3808)。このように、染色体転座由来キメラ因子関連蛋白質は抗がん剤の新規治療標的となり得ることが明らかとなり、治療効果・予後率の改善が期待される。
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