研究概要 |
歯髄炎症を効率的にコントロールするためには,炎症反応に関与する因子の相互関係を調べることが重要である。本年度は,ラット創傷歯髄から単離した新規遺伝子FIP-2の発現を調節することによる炎症性サイトカイン発現への影響を調べた。 FIP-2に特異的なsiRNAを含む発現ベクターをラット腎臓細胞に遺伝子導入・選択培養し,FIP-2を発現抑制した細胞株(FIP-2KD)を確立した。FIP-2KDでのFIP-2の発現抑制を,定量RT-PCR法,ウエスタンブロット法および免疫染色法にて確認した。また,FIP-2KDでは細胞増殖能活性が約40%増加することをMTT法にて確認した。すなわち,創傷歯髄でのFIP-2の上昇は,細胞周期を調節することにより歯髄細胞の増殖を抑制する可能性がある。 Tumor necrosis factor(TNF)-αで刺激後のFIP-2-KDの培養上清をサイトカインアレイにて調べ,FZP-2の発現抑制によるサイトカインプロファイルの変化を確認した。FIP-2KDにおいてmonocyte chemoattractant protein-1(MCP-1),tissue inhibitors of matrix metalloproteinases-1(TIMP-1),そしてvascular endothelial growth factor(VEGF)の発現が顕著で,特にMCP-1量は,mockに比較して有意に減少することがELISA法にて確認できた。さらに,FIP-2KDでは,MCP-1 mRNA量が減少することが定量RT-PCR法にて明らかになった。これらの結果は,FIP-2が炎症性サイトカインの転写を促進的に調節している可能性を示唆する。 以上の結果から,歯髄炎症時のFIP-2の発現増加に伴う細胞周期制御因子の抑制および炎症制御因子の促進により,炎症反応が増悪することが示唆された。
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