研究概要 |
歯髄組織の保存および象牙質の再生を促進するためには,歯髄炎症を分子生物学的アプローチからコントロールすることが有効であると考えられる。本年度は,ラット創傷歯髄から単離した新規遺伝子FIP-2の発現抑制による歯髄炎症のコントロールを目標として,FIP-2が制御する炎症性シグナル分子機構および細胞死への影響を調べた。 FIP-2に特異的なsiRNAを含む発現ベクターをラット腎臓細胞に遺伝子導入・薬剤選択培養し,FIP-2を発現抑制した細胞株(FIP-2KD)を確立した。FIP-2-KDおよびMockの細胞株をそれぞれ無刺激または過酸化水素にて刺激し,細胞内蛋白の発現変化を抗体アレイで解析し,制御因子の相互関係をIngenuity Signaling Pathways Knowledge Baseを用いてパスウェイ解析を行った。 Mockに比較してFIP-2-KDでは,一連の細胞増殖因子mitogen activated protein kinase(MAPKS),myelocytosis(MYC),細胞周期制御因子cyclin dependent kinase(CDKS),そしてcell division cycle(CDCS)のシグナルが増強していた。また,細胞死制御因子であるCaspasesのシグナルが減弱していた。一方,過酸化水素で刺激下では,一連の細胞周期制御因子,細胞増殖因子,そして細胞死制御因子の発現が,顕著に抑制されており,DNAの断片化を示すTUNEL陽性細胞はFIP-2-KDにおいて著しく少なかった。 以上の結果から,FIP-2は,炎症性反応のなかで発現増加し,細胞死を促進させる因子であることが示唆された。FIP-2を局所的に発現抑制することは歯髄の炎症反応の改善に役立つ可能性がある。
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