本研究では、ボツリヌスC型およびD型神経毒素の受容体認識機構を明らかにするため、表明プラズモン共鳴法(SPR)を用いた新たな結合実験系を構築した。C型毒素に結合性を示すガングリオシドやD型毒素に結合性を示すボスファチジルエタノールアミン(PE)を含有したリボソームを作製し、センサーチップに固定化後、BIACORE2000を用いてリコンビナントHc(毒素の受容体結合ドメイン)との結合を解析した。C型毒素由来HcはGDlb>GTlb>GQlbの強さで結合することがわかった。このことから、C型毒素とガングリオシドの親和性には、ガングリオシド糖鎖末端のシアル酸が関与し、結合親和性に負に働くと考えられた。PE含有リボソームに対しては、D型毒素はわずかの結合を示し、その結合はGDlbやGTlb共存下で増強されることがわかった。D型毒素はGDlbあるいはGTlbだけを含有させたリボソームには結合しないため、これらのガングリオシドはD型毒素とPEの結合に対して補助的に働いていると考えられる。一方、他の細菌毒素と脂質間の相互作用についても、今回構築した実験系が適用可能かどうか検討した結果、コレラ毒素及びコレラ毒素BサブユニットとGM1との相互作用について解析することができた(論文投稿中)。現在、その他の脂質結合性細菌毒素についても解析を進めている。また、今後、ガングリオシドやPEを介したボツリヌス毒素の細胞内侵入機構についての解析を検討しており、その際用いる蛍光標識Hcの結合活性の評価や分子認識に関わるアミノ酸を特定する上でも、本研究で構築したSPR解析系は有用であると思われる。
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