研究概要 |
本年度はまず,慢性的にストレス反応が亢進するか否かを基準とした走運動トレーニングモデルを作成し,その妥当性を検討した.さらにそのトレーニングモデルを用いて,運動強度の違いがラットの海馬局所血流量にどのような影響を及ぼすか検討することを目的とした.ラット(11週齢)は,非運動群(0n/min),低強度群(15m/min),および運動ストレスとなる高強度群(40m/min)の3群に分け,トレッドミルを用いた走運動トレーニングを,1日60分,6週間行わせた.本条件でトレーニングを行わせると,持久的能力の指標であるヒラメ筋のクエン酸合成酵素活性は運動強度依存的に増加する一方,高強度群では顕著な副腎肥大,胸腺萎縮,高コルチコステロン血症がみられた.この結果,高強度運動群は慢性的にストレス反応が亢進していることが確認され,ストレス反応が生じるか否かを基準とした運動強度設定の妥当性が示された.また,海馬依存性の空間学習能力をモリス水迷路課題により評価した結果,低強度群ではプローブテストの成績が非運動群と比較し有意に向上する一方,高強度群では向上しなかった.この結果は,低強度の運動トレーニングが空間学習能力を向上させるために有効であるが,その効果はストレスとなる高強度運動では得られない可能性を示唆する.さらに,低強度トレッドミル走運動時(10m/min)の海馬局所血流量をレーザードップラー血流測定法により測定した結果,その増加率は,低強度群が他の2群と比較して有意に高かった.この結果は,同一強度の体性感覚刺激に対する海馬局所血流量の反応性が低強度群で向上し,その調節能力になんらかの変化が生じていることを示唆する.現在はその生理的メカニズムを検討することを目的とし,毛細血管密度や血流調節因子(NO合成酵素など)に焦点をあて検討中である.
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