研究概要 |
近年,製造現場における品質評価や高付加価値設計,医療現場における触診など,様々な分野でヒトの感性を定量化する技術へのニーズが高まりつつある.一般に,対象の物理特性を計測し,感性との対応が試みられているが,未だ十分な一致は見られていない.本研究では,基本的な触動作といえる押し込み動作により得られる触感を対象とし,触動作を行うヒトに着目することで,触感情報処理メカニズムを明らかにすることを目的とする.本研究は,製品評価や触診に寄与するだけでなく,触覚センサや触覚ディスプレイの有用な設計指針となるといえる. 本年度は,押し込み動作による様々な触感のうち支配的であるもの,ヒトが受ける機械的刺激のうち評価に重要な因子となるものについて,基礎的な検討を行った.まず,触感の異なる数種類のクッションを用いて,押し込み動作により得られる様々な触感について,一対比較法を用いたSD(Semantic Differential)法による官能評価を行った.得られた結果に対して因子分析を行い,押し込み動作による触感を表現する上で支配的となる感性量について検討を行った.9組の対をなす触感を表す形容詞を用いて官能評価および因子分析を行った結果,押し込み動作により得られる触感の中でも,「やわらかさ」および「弾力性」が支配的な感性量であることが明らかになった.これらを評価することで,押し込み動作による触感を概ね表現することができると考えられる.続いて,因子分析の結果を基に,「やわらかさ」と「弾力性」について,皮膚感覚をマスクした場合や受動動作を行った場合における触感評価の変化を調べた.その結果,「弾力性」について,自己受容感覚だけでなく皮膚感覚も重要な評価因子となっており,両者を統合して取り扱う必要があることが分かった.
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