SNARE結合に重要なアミノ酸残基を変異させたシナプトタグミン1遺伝子を、シナプトタグミン1ノックアウト(KO)マウスから培養した神経細胞に発現させ、伝達物質放出に対する影響を調べる計画を本年度は立てた。シナプトタグミン1KOマウスを米国の前研究室から輸入し、十分な大きさの実験用コロニーを確立した。KOマウスの脳から初代培養した自己シナプス形成単一海馬神経細胞におけるシナプス後電流を、前研究室においてと同様の質でホールセルパッチクランプ法により記録できるようにした。 哺乳動物細胞用発現ベクターにサブクローニングした変異シナプトタグミン1遺伝子をHEK293細胞にトランスフェクションし、変異タンパク質の発現を確認した。 これらの遺伝子を、市販のリポフェクション試薬を用い神経細胞に導入しようと試みた。しかし、前研究室で用いていた同じプロトコールに従い現研究室で行ったところ、トランスフェクション効率は以前の10分の1以下と低く、実際に電気生理学実験に用いる自己シナプス形成細胞に目的遺伝子を発現させようとした場合、トランスフェクタントが全く得られなかった。この試薬は米国のライフサイエンス研究用試薬会社のもので、前研究室におけるトランスフェクション効率は約2%であった。このように、同じ試薬の効果が米国と日本で違うことについて、販売代理店からは有用な回答は得られていない。 本年度は着任した研究室での研究環境を整えることに集中した。その結果、研究に用いるすべての実験材料は準備が整い、測定方法も確立できた。しかしながら、神経細胞への遺伝子導入ができないという全く予想外のトラブルが原因で計画実施に遅れが生じ、新たな知見を得るには至らなかった。現在この問題を早急に解決するために、トランスフェクション条件を再最適化しようとすると同時に、ウィルスベクターの使用を含めて別の遺伝子導入法を検討している。
|